大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)179号 決定

抗告人 中島三郎

利害関係人(債権者) 株式会社神戸銀行

利害関係人(競落人) 日本土地株式会社

主文

原決定を取り消す。

理由

抗告代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由として主張するところは、別紙のとおりである。

大阪市南区田島町一六番地上家屋番号同町第一四二番の建物として表示された本件競売物件は、債権者神戸銀行が昭和三二年九月一〇日原裁判所に強制競売を申し立てるに当り、家屋台帳には該当物件がなかつたけれども、家屋課税台帳に右表示にかかる物件が抗告人の所有である旨の記載があつたので、右家屋課税台帳の謄本を添え、未登記物件として強制競売を申し立て、同月一二日、同裁判所から強制競売開始決定を得、右強制競売申立の記入登記のため、同月一三日、大阪法務局今宮出張所受付をもつて、前記南区田島町一六番地上、家屋番号同町第一四二番、木造瓦葺平屋建居宅一棟、建坪一五坪二合二勺、附属建物木造トタン葺平屋建倉庫、建坪一〇坪二勺と表示して、職権により、抗告人名義に所有権の代位登記がなされたものであることは、記録上明らかである。

抗告人の提出する各書証と、抗告人中島三郎審尋の結果を綜合すると、

「大阪市南区田島町一六番地の地上には、本件競売物件に該当すべき抗告人所有の建物は全く存在せず、同地上に存在する建物は、中島印刷紙器株式会社所有の家屋番号同町第六三番の二、木造瓦葺二階建店舗一棟、建坪六坪七合二勺、二階坪五坪一合と中島ウタ所有の家屋番号同町第六三番の三、木造瓦葺二階建店舗一棟、建坪八坪四合、二階坪六坪五合であり、一方、本件競売物件の表示と構造等を同じくする木造瓦葺平屋建居宅一棟、建坪一五坪二合二勺、附属建物木造トタン葺平屋建倉庫、建坪一〇坪二勺の抗告人所有の建物は、前記南区田島町一六番地の土地から約半丁はなれた南区田島町三三番地上に存するが、元来この土地は、大阪都市計画南東平地区復興土地区画整理事業の施行者である大阪市長が中島ウタ所有にかかる大阪市南区上汐町三丁目五四番地(宅地四四、一二坪)、同区谷町九丁目二二番地の一(宅地一九、七五坪)、同二一番地の二(宅地三六、九九坪)の土地の仮換地(南東平高津地区三七ブロツク、符号四の二、六九坪)として指定した土地であり、右建物は、この仮換地指定後抗告人が建築した建物であるところ、右区画整理事業がまだ完了していないため、抗告人は、右建物のうち、居宅の方につき、大阪法務局今宮出張所昭和二九年三月一九日受付第五三〇一号をもつて、仮換地たる右建物所在土地の従前の土地にあたる前記南区上汐町三丁目五四番地等三筆の土地を建物の所在地と表示したうえ、抗告人名義に所有権の保存登記をした。」

という事実を認めることができる。

およそ、建物の保存登記において、その所在の都、市、区、町村、字及び地番を表示するについては(昭和三五年法律第一四号による改正前の不動産登記法三六条一号、右改正後の同法九一条等参照)、当該建物が現実に存在する都、市、区、町村字等の名称をもつてすべく、その表示が建物の現実に存するところと異なるためその同一性の認識をさまたげるときは、その表示による登記は、当該建物の登記としての効力を有しえないものと解すべきであつて、このことは、土地区画整理事業にもとずく仮換地の指定後その事業の完了前に仮換地として指定された土地の上に建築される建物についても、その理を異にするものではない。

従つて、抗告人の申請により南区上汐町三丁目五四番地等三筆の地上にあるものとしてされた大阪法務局今宮出張所昭和二九年三月一九日第五三〇一号による抗告人名義の所有権保存登記は、前記南区田島町三三番地上の建物の登記としては、効力を有しないものというべく、その有効なることを前提とする抗告代理人の主張は、理由がない。

しかし、職権をもつて按ずるに、本件競売手続は抗告人所有の木造瓦葺平屋建居宅一棟(建坪一五坪二合二勺)附属建物木造トタン葺平屋建倉庫(建坪一〇坪二合)が大阪市南区田島町一六番地上に存するものとしてなされたものであるが、前記のとおり、右地上には、他の建物が存在するのみで、該当物件の存在は認めがたく、競売手続上の不動産の表示における建物の構造、坪数等と構造等を同じくする抗告人所有の建物は、同市南区田島町三三番地上に存在するから、本件競売手続がいずれの建物を目的物件として行われたものであるかは、必ずしも明らかでないし、また、仮に本件競売手続が同市南区田島町三三番地上に存在する抗告人所有の前記建物を目的物件としてされたものであるとしても、競売期日の公告に当該建物が同市南区田島町一六番地上に存在するものとして表示されている以上、叙上のごとき本件の事実関係のもとにおいては、右公告における不動産の表示は、民事訴訟法第六五八条第一号に定める不動産の表示として適法なものということはできないから、同法第六七二条第四号に定める場合に当るものというべく、同法第六七四条第二項の規定により競落を許すことができないものといわなければならない。

そこで、主文のとおり決定する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

抗告の理由

一、本件競売物件

大阪市南区田島町十六番地上

家屋番号同町第一四二番

一、木造瓦葺平家建居宅壱棟

建坪 拾五坪弐合弐勺

附属建物

木造トタン葺平家建 倉庫

建坪 拾坪弐合

は、昭和三十二年九月十三日大阪法務局今宮出張所受付にて、所有者中島三郎として所有権保存登記が為されたが、右物件は既に登記あるに拘らず競売申立人株式会社神戸銀行が未登記物件と称して大阪地方裁判所を詐り、不当代位権を行使し同庁に嘱託登記をした。

然し、この登記は登記原因において明かに無効のものであつて当然取消さるべきである。

二、而して、右架空の物件に対し債権者株式会社神戸銀行は強制競売の申立をなし、同庁はこれに対して競売開始決定をなし昭和三十三年六月十八日午前十時を競売期日と定め同日金五十一万二千二百円を以て日本土地株式会社が競落、同月二十三日大阪地方裁判所は競落許可決定を言渡した。

三、本物件は、不動産登記簿上に在つては、抗告人の妻中島ウタ旧所有地宅地南区上汐町三丁目五十四番地上に所在することとなつているが現実の敷地は、戦災地特別都市計画法に基き大阪市の実施する土地区劃整理による右宅地の仮換地であるところの同市指定の大阪市南区田島町三十三番地上に建設せられあり、これは後日土地区劃整理完成後、換地と決定されたる際に表示更正の登記をすることゝなつて居り、この競売物件とする建物は、大阪法務局今宮出張所昭和二十九年三月十九日受付第五三〇一号を以て所有者中島三郎の所有権保存登記がなされている猶更にこの建物は抗告人が住宅金融公庫から建築資金を借入れその担保として提供、債権額金三十五万円、弁済期昭和四十六年五月十日、毎月金一千七百円宛分割弁済する約旨の抵当権設定登記が為されているのである。

四、以上の次第であつて、該不動産強制競売事件はその申立人たる株式会社神戸銀行が、右事実を知悉しながら裁判所を詐つて所有権保存登記をなし競売に付して、その売得金を得んとする不法行為としか考えられない。

若しこの物件が不当に処分されんか、抵当権者は不測の損害を蒙り、ひいては抗告人に対し他の担保を要求、又は分割弁済の期限の利益は喪失することゝなり、残額一時に請求される等の結果となる。

五、然らずとするも二重登記を敢てしたのは株式会社神戸銀行であり、前記戦災地特別都市計画法による土地区劃整理地区であることも公知の事実であり登記あるに拘らず、後に債権者代位による保存登記をなしたことは到底許容せらるべき限りではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例